考え事

思ったことを書きます。

浅野いにお『零落』が持つ空虚感

 ソラニンおやすみプンプン浅野いにおさんの漫画の虜になった。ネットでは雰囲気マンガなどと言われているが、その雰囲気がまた読ませる力を持っているのだからすごい。
 さて、今回は新装版のソラニンと同時に発売された零落を読んで思ったことを書いていきたいと思う。あくまで自分の感想であり、個人的な意見なのであまり大きく耳を傾けすぎませぬよう。

 『零落』はタイトル通り落ちぶれた漫画家に焦点が合わせられた作品である。8年間の長期連載を終えた主人公「深澤」が次作を描き始めることができずどんどんと停滞していき、やがて「ちふゆ」という風俗嬢と出会うというのが本作のメインストーリー。終始鬱屈とした息苦しい展開が続くこの漫画だが、多少(もしくはもっと多く)作者である浅野いにお氏の自伝的要素が入っているようだ。どこまでが現実でどこまでが虚構なのか、我々に判別する術はないが…。

 ネタバレになってしまうので詳しく書くつもりはないが、これほどまでに息苦しい泥沼をかき分けて進んでいくような漫画を自分は知らない。リアルであり嘘であるこの漫画はきっと評価が大きく割れるに違いない。主人公の行動に共感できる読者もけっして大多数ではないだろう。
 しかし、だからこそリアルなのだと思う。一個人が抱える重苦しい悩みを読者に託す。それがこの漫画の持つ「空虚感」なのだろう。

大学近辺

 いくと留年するラーメン屋、壁なのかなんなのかわからないくらいくすんだ漫画を置いてある飲食店、伝説のマズい台湾料理屋、スズメやヘビの肉を使ったゲテモノ焼鳥屋などなど、大学近辺にはおもしろい飲食店がたくさんあった(ある)らしい。そういうところが潰れて居酒屋になっていたりアパートが建ったりしているそうだ。良くも悪くも街全体がきれいになってしまっているのだなと思う。

 やっているんだか潰れているんだかわからない店も見かける。そんなところにはフラッと立ち寄ってみたくなったりもするのだが、独りで入る勇気はなかなか出ない。今気になっているのはド田舎に不似合いなネオンがペカペカと点滅する中華料理屋である。入るべきか去るべきかを店の入り口に続いているであろう細っこい路地の前でウロウロしながら考え、けっきょく踏み込む力が足りずに踵を返してしまうのだ。今度いく機会があったなら、絶対に入店してやろう。